初めまして。ロードバイクアカデミーです。
このサイトでは「ロードバイク」というスポーツを科学的にとらえ、理論に基づいたノウハウや、機材インプレッションなど、「ロードバイクで効率的に速く走る」ための情報を発信していく予定です。
まずはこのサイトの最初の投稿として、皆さんにこんな問いかけをしてみたいと思います。
ロードバイクのペダルに全体重をのせ続けたら何ワット出ると思いますか?
昨日、筆者のツイッターでこんな投稿をしました。
【ロードバイクの物理】
— Kakeru Omae (@cyclistKKR17) July 2, 2020
体重60kgの人が、全体重をペダル位置0時から6時まで真下にかけて90rpmでペダリングしたら、理論上何ワット出ると思いますか?
ロードバイクのトレーニングは、一口にいっても、いろんな側面があります。
筋トレ、テクニック、パワー、食事、回復…。どれをとってもトレーニングとしては欠かせない要素なのですが、皆さん「トレーニング」と聞くと、
「力いっぱいペダルを踏みこまなきゃ」
と力んでしまいがちです。
でも、直感的には、体重をペダルに乗せてうまく回すことができたら、効率が良さそうじゃないですか?
そこで今回は、全体重をペダルに乗せることができたら、理論上何ワット出力することができるか?
について書いていこうと思います。
数学や物理を使った細かい計算過程なんて身体が受け付けないよ…
という人のために、最初に答えを書いておきます。
体重を60kg、クランク長を170mmとすれば、612ワットです。「全体重をペダルに乗せて90rpmでペダルを回す」こと自体の難易度が極めて高いのは、もちろんなのだけど…。
もちろん理論上なので、実際には全体重をペダルに伝えることは不可能ですが、意識を変えてみるだけの価値は十分にあるのではと思います。
計算過程が気になる人のために、以下の章で解説していきます。
高校で習う「物理」と「数学2・B」までの内容が分かる方は理解できる内容だと思います。
ロードバイクのペダルに全体重をのせ続けたら10w/kg出せる。計算過程は?
ここからは少し面倒くさいですが、計算がやりやすいように要素を記号で置き換えていきましょう。
上の図をクランクの円運動だと思ってください。
仮定する条件は、
- ライダーの体重: 60kg
- クランク長: 170mm
- ケイデンス: 90rpm
- 体重を加える範囲: クランク位置で0時から6時まで
そして、記号を以下のように設定します。
- クランク角: クランク軸を中心としてθ(ラジアン)
- クランク長: L[m]
- ケイデンス: n[rpm]
- クランクにかかる鉛直方向の力: F[N]
まずはケイデンスのことは考えず、一回の踏み込みで体重がペダルに対してする仕事を考えていきましょう。
クランクは円運動をするのでもちろん回転モーメントを考えますが、ここで注意したいのが、回転モーメントも仕事も単位が同じ[N・m]だということです。
- 回転モーメントは、力の方向を考慮するベクトル量
- 仕事は、単にエネルギーを表すスカラー量
ですから回転モーメントから仕事を求める時は、回転モーメントの一般式を求めてから回転範囲について定積分すれば良いですね。
体重は常に鉛直方向に加えますが、回転モーメントは円運動の接線方向の力についてのみ考えるという点にも注意が必要です。図形より、クランク軸にかかる回転モーメントは
$$M=FL\sinθ$$
です。一回の踏み込みで体重がペダルに対してする仕事は、これをラジアンで0~πの範囲について定積分するので、
$$\int_{0}^{π}FL\sinθdθ=FL[-\cosθ]_{0}^{π}=2FL$$
ですね。(単位は[N・m]または[J])
ワットというのは仕事率のことで、単位は[J/s]です。ケイデンスが90rpmなら、1分間に上記の運動を180回行います。1分は60秒ですから、一秒あたり仕事率に直せば、
$$2FL×180/60=6FL$$
体重を60kgfとしているので$F≒600N$、クランクの単位を[m]に直して0.17mとすれば、
$$仕事率P=6×600×0.17=612[w]$$
体重が異なる人にもすぐ計算できるように公式化しておくと、体重をW[kg]として、90rpm、クランク長170mmで体重のみで出力できるパワーは、
$$P≒10W[w]$$
です。すなわち体重を利用するだけで10w/kg出力できる計算です。すごくないですか?
ロードバイク上の体重移動と姿勢保持で理論上10w/kgなのに、必要以上に力んでいる人が多い
これは自分も含めて、国内プロ選手や国内アマチュア選手のフォームや走り方を見て感じることです。なので僕はこの「体重」をできるだけ効率的にペダルに伝えるように意識してます。
ロードバイクに乗っているとき、体重を支えている点はどこですか?
- ハンドル
- サドル
- ペダル
身体と自転車の接点が以上3点しかないのだから、この3点ですよね。
ハンドルにしがみついて、サドルにどっかり座って、ペダルを脚の筋肉だけで頑張って踏んでいる人が多いと感じます。
極端な話、体重を最も効率的に使った理想的なペダリングフォームは、
「両手離しダンシング」
です。(公道で絶対にやらないでください。落車します)
日々のパワートレーニングに行き詰まったり、パワーを出すことばかり意識した結果力んでいるなと思い当たる人は、
一度自分の体重を効率的にペダルに伝えられているかチェックしてみましょう。
2020/7/7追記
読者の方数人から、
「ロードバイク上の体重移動『だけ』で10w/kgというのは論理的に矛盾している」
というご指摘をいただきました。
体重という位置エネルギーのみを使って出力する場合、自分で姿勢を変えるために何もしなければ、半回転でペダルがとまります。
また、仮にそれだけで出力できたとすると、半回転ごとにクランク長の2倍分の距離、身体が沈下し続けます。
なので、結局、ペダリングにおいて体重を利用するためには、
「位置エネルギーに相当する分のエネルギーを姿勢保持によって作り出さなければいけません。」
これが一番難しいことであるということを付記します。
そしてこの記事で最も言いたいことは、
「体重を利用すること以外の、ペダルに加える余計な作用・反作用のベクトルを減らすことが、効率の良いペダリングに最も大切なのでは?」
ということです。
2020/7/11追記
先日の追記の後さらに、
サイクリストであり宇宙物理学者であるnupuriさん、そして、元全日本タイムトライアルチャンピオンで東大工学部出身の頭脳派ロードレーサー、西薗良太さんからご指摘をいただき、
「体重を利用してロードバイクを進ませることが本当に楽なのか?」について別記事で再検討しました。以下です。
【ロードバイクアカデミー、始動します。】
最初の投稿から小難しい内容になってしまいましたが、
ロードバイクアカデミーでは、医学生プロロードレーサーである筆者、大前翔が、効率的にロードバイクで速く走るためのノウハウや、トレーニングのやり方などを投稿していきます。
「ロードバイクを科学する」
がキャッチコピーです。
今後の投稿も注目してくださったらうれしいです。