パワーメーターは使ってるんだけど、乗るときに数字見るだけで、家で数字を見返したりはしないなあ。
パワーメーターはこの10年で日本でも身近なトレーニング機材になりましたが、意外とこんな人は多いのではないでしょうか?
パワーメーターは、皆さんが思う以上に沢山のことを、選手に教えてくれます。
その証拠に、パワートレーニングのコーチングを専業でやっているコーチがいます。その事実自体が、パワーデータの検証というものが奥が深く、また情報量が多いのだということを示しています。
今回はその中でも、コーチをつけなくても比較的簡単にできる、パワーメーターを使っているなら絶対やるべきデータ活用術の内容についてお話ししていきます。
ロードバイクのキホンのパワートレーニングの内容
これからお話しする内容は、ハンターアレン、アンドリューコーガン博士共著『パワー・トレーニング・バイブル』に準拠します。パワートレーニングのキホンの全てが書かれている本ですので、まだ持っていない方は購入していただいて、筆者のサイトと合わせてごらんいただくと理解が深まります。
自分の弱点を把握しよう: パワープロフィールの作成
これは、筆者が実際に自分のデータで、WKO4というソフトウエアで作成した、パワープロフィールです。
パワーメーターを使うと、自分の脚質の長所と短所を把握することができます。
具体的には、今からお話する運動強度の「ゾーン」ごとに自分の全力のパワーを測定して、その数字を一覧表に当てはめ、
「世間的に見て自分はこの強度が強い、弱い」
ということを把握する流れになります。それでは説明していきますね。
人間の体は、運動の持続時間によって、異なる代謝システムを使っています。
無酸素運動、有酸素運動、といった言葉はだれでも聞いたことがありますよね。
大まかにはこの2つで良いのですが、さらに運動強度を細かく分類すると、7つにわけることができて、そのうちの数字の高い4つ(ゾーン4-7)が、いわゆる「全力の」運動になります。
名称 | 持続時間の目安 | 代表する時間 | |
ゾーン7 | 神経筋パワー | 30秒 | 5秒 |
ゾーン6 | 無酸素運動容量 | 30秒-3分 | 1分 |
ゾーン5 | VO2max(最大酸素摂取量) | 3-8分 | 5分 |
ゾーン4 | LT(乳酸閾値) | 8-30分 | 20分 |
ゾーン3 | テンポ走 | – | – |
ゾーン2 | 耐久走 | – | – |
ゾーン1 | 回復走 | – | – |
上の表に、「代表する時間」と書きましたが、この時間が、各ゾーンの強さを測るときに指標として使う時間になります。
自分のゾーン7での強さを知りたければ、5秒間の全力走をして、測定すればよいわけですね。
そうして、5秒、1分、5分、20分の自分の最大パワーを測定したら、さっそくそれが客観的にみてどの位のレベルなのかをチェックしましょう。
やることは以下です。
『パワー・トレーニング・バイブル』の出版社であるOVER LANDER株式会社さんの運営する「ジテトレ」のこちらのページが、本のp.86に記載されている「パワープロフィール一覧表」を利用しやすいようにexcelファイルにまとめてくれています。
「パワープロフィール一覧表」というのがそれです。
このExcelファイルに自分のパワープロフィールを当てはめます。
すると、自分のパワープロフィールが世界的な立ち位置でどのあたりにいるのか、そして自分の強いところと弱いところはどこなのか、把握することができます。
筆者の場合はこのようになります。
ぜひ活用してください。
ただし、このやり方では、定期的(少なくとも半年に一回)に、自分の全力のパワーを、練習の中で測定する必要があります。
頻繁にレースに出場する方や、日ごろの練習でハードに追い込む方は、測定という形で行わなくても日ごろベストパワーを測定していることになるので、練習のデータの中からベストパワーを抽出するという方法がやりやすいです。
この方法は、アプリケーションやソフトウエアを使います。
具体的にどんなアプリケーションをどのように使うのかに関しては、別記事にまとめるので少々お待ちください。
また、もう一歩踏み込んだパワープロフィールの活用方法として、「疲労プロフィールの作成」というのがあります。
疲労プロフィールについてはこちらの記事で話していますので、興味のある方はご覧ください。
自分の体力レベルを把握しよう: CTL, ATL, TSBの活用
まず、これらの用語がわからない方のために各用語をざっと説明します。
- CTL: 過去42日間のTSSの指数加重移動平均。体力の指標。fitnessともいう。
- ATL: 過去7日間のTSSの指数加重移動平均。疲労の指標。fatigueともいう。
- TSB: 前日のCTLと前日のATLの差。身体の状態の指標。formともいう。
指数加重移動平均ってなんじゃそりゃ。という方もいらっしゃると思いますが、「最近のデータほど計算結果に与える影響が高くなる」ようにするための演算手法です。大まかに平均だと思っていただいて構いません。
まず、これらの数字を正確に得るためには、1時間持続できる最大パワーであるFTPが正確に測定できている必要があります。
FTPは、20分の最大パワーに0.95を乗じることで簡易的に推定できるので、上記のパワープロフィールを作成するときにテストするか、過去のレースデータなどから呼び出して設定してみましょう。
FTPを正確に把握することの重要性に触れたところで、これらのデータの活用法に関して説明していきます。
TSBがプラスにあるときは、体が回復している状態、逆にマイナスにあるときは、体が疲労している状態を示します。
CTLが高ければ、その人は過去42日間にわたって激しいトレーニングをこなしてきたので、それだけの体力があるということになります。
しかし、CTLを上げるためにやみくもにハードな練習をすると、直近7日間の練習量の指標であるATLが急上昇するので、結果的にTSBのマイナスが大きくなります。
あまりにもTSBのマイナスが大きくなると、オーバートレーニングになるリスクが出てくるので、TSBのマイナスを大きくしすぎないように、少しずつ練習量を積み上げていく必要があります。
ちなみに参考までに、国内プロ選手のシーズン中のCTLは大体120前後だと思います。
あなたのCTLはいくつだったでしょうか?
そして一般的に、レース当日のTSBはプラスになるようにすると、レース本番で良いパフォーマンスを発揮しやすいと言われています。これをレース前の練習量を決めるのに役立てることで、レースでベストなパフォーマンスを出せるように調整ができるというわけです。
では、これらの数字はどのように管理したらよいのでしょうか?
CTL, ATL, TSBを時系列で一元表示したグラフは、PMC(パフォーマンス・マネジメント・チャート)と呼ばれます。
Training Peaks有料版、WKO5、無料ソフトのGolden Cheetahなどのソフトウエアを使えば、これらの数字を表示することができます。
筆者のPMCを有料版のTraining Peaksで表示したものが上の画像になります。
また、PMCを表示するだけであれば、TSSのデータを毎日エクセルに入力して管理するという方法もあります。
こちらのページに、「TSBシミュレータ」というβ版のエクセルファイルがあります。
このファイルの優れているところは、過去のデータだけでなく、未来のデータも入力できるので、次のレースまでの練習スケジュールを立てる時に、TSSを入力して、レース当日のTSBがプラスになるようにシミュレートすることができることです。
シンプルなエクセルファイルですが、この機能は有料アプリであっても備えていない、または備えていても難解な操作を必要とすることが多く、練習スケジュールを組み立てる時にはぜひ活用することをおすすめします。
2019年の全日本チャンピオンである入部正太郎選手が、このTSBシミュレータを利用したトレーニング方法について話したインタビューがありますので、こちらも興味のある方は見てみてください。
また、さらに踏み込んだPMCの活用方法をこちらの記事で話していますので、興味のある方はご覧ください。
「次のレース」のためのトレーニングをしよう: レースデータの分析
次に出場する予定のレースが、初めて出場するレースだったら、そのレースのコースがどんなものなのか、実際に試走してみないと予測がつかないと思います。
しかし、昨年出場したことがあって、同じコースで行われる、なんてことはよくあると思います。
多くのヒルクライムレースや、ジャパンカップオープン、ツールドおきなわなどのアマチュアレースは、ほぼ毎年同じコースを使っていますからね。
出場予定のレースについて、過去のデータがある場合、その時のデータを見返してみましょう。
例えば、以下は筆者が2018年に出場して優勝した、群馬サイクルスポーツセンターで行われた東日本ロードクラシックのE1のレースのパワーデータです。
パワーをゾーン別に分類して、各ゾーンの持続時間を表示しています。
全部で53分と短いレースでしたが、そのうちの11分をゾーン6(無酸素運動容量)で走っており、かなり高い強度のレースだったことが分かります。
このレースにまた出場して、優勝しようと思ったら、ゾーン2で5時間走る練習は意味をなさないことがわかるでしょう。
ゾーン6でインターバルを繰り返すような練習が必要ですよね。
この傾向というのは、レースが変われば全く変わってきます。
クリテリウムなどのレースでは比較的似た傾向になるでしょうが、ツールドおきなわのような長いロードレースや、ヒルクライムでは、全く違うデータを示すでしょう。
今度ご紹介する4分割分析を使えば、もっと詳細にレースのためのトレーニングを組み立てることができます。
「レースのデータ」というのは宝箱のようなものです。
有効に分析して、次に出場するレースに特化したトレーニングを組み立てましょう。
まとめ: パワートレーニングの内容を活用してロードバイクトレーニングをレベルアップ!
ただ走行中にパワーを見るだけの練習から、さらに一歩練習の質を高めるための方法をご紹介してきました。
パワープロフィールの作成、TSSに関連した数値の管理、レースデータの分析は、比較的簡単にできるので、今すぐ取り組んで、次のレースに役立てましょう。
これらのことが基本的過ぎる、という方には、さらに一歩踏みこんだデータ活用法に関する記事も書いていますので、是非ご覧ください。
パワートレーニングにおすすめのアプリについてはこちらで解説しています。
コロナウイルスの影響でレースもなく大変な時期ですが、自分の弱点を集中的に強化できる期間と思って、トレーニングに取り組んでいきましょう!
それではまた。