皆さん、ロードバイクのタイヤはどうやって選んでいますか?
とりあえずネットで評判を見て、レースには転がりの軽そうな高価なタイヤ、練習では丈夫そうで比較的安価なタイヤをはいてるよ。
おそらく多くのロードレーサーの方がそう言うと思います。
しかし、本気でタイヤについて考えたことはありますか?
実は筆者も今日に至るまで、タイヤについて本気で考えたことはありませんでした。
この記事は筆者の調べ学習のまとめです。
「本当に速いタイヤ」について考えると、それはかなり複雑な要素が絡んできて、議論は難しくなります。
例えば、
- ヒルクライムに出るのか、ロードレースに出るのか
- 道は荒いのか、きれいなのか
- コースはテクニカルなのか
真剣にタイヤを選ぶとなると、おおまかにこんな要因によって、選ぶタイヤを変える必要がありそうだということは直感的に理解できます。
実は、過去にもいろんな方がロードバイクのタイヤ選びについては科学的に解釈する記事をアップロードされており、たとえば、
こちらのブログでは「タイヤの転がり抵抗」について3記事に分けて解説しているほか、
筆者も、「本当に速く走るための空気圧設定」に関して記事を書きました。
しかしです。
じゃあ結局、全部の要素をひっくるめて考えると、どんなタイヤが一番速いの?
ということに関してはブラックボックスのままです。
例えば、上記の記事の引用元の表を引っ張ってきます。
この表は、タイヤの持つ転がり抵抗と、空気抵抗を合わせて考えて、最も抵抗が小さい順にランキングしたものです。
一見これでタイヤに関する議論は終わりに見えます。
しかし、
「あれ?軽さは?」
「あれ?耐パンク性能は?」
「あれ?グリップは?」
要するにこちらのサイトも、タイヤのもつあくまで2つの側面について考察しただけにとどまるのです。
と、いうわけで今回は、具体的にタイヤの商品名を出しておすすめを紹介するようなことはしていません。
具体的なタイヤのおすすめは、この記事をもとに筆者が選びましたのでこちらの記事をご覧ください。
純粋に「速く走るためにタイヤに求められる要素」を全部洗いだして整理して、
「本当に速く走るためのタイヤ選びには何を重要視すべきか?」
ということを科学的に検証したら、
意外と、転がり抵抗の影響がとても大きい。
ということが分かりました。
以下で筆者の調べ学習の成果を解説していきます。
「速く走る」ためにロードバイクのタイヤ選びに求められる要素とは?
まず、ロードバイクのタイヤに求められる性能とは一体何でしょうか?
筆者がいつも、サイトのキーワード選定に使っているツール「関連キーワード」で『ロードバイク タイヤ』を検索して出てきたサジェストキーワードの中から、「速さ」に関係すると思われる要素をピックアップしたところ、以下の5つとなりました。
- 転がり抵抗の小ささ
- 空気抵抗の小ささ
- 軽さ
- グリップ
- 耐パンク性能
以上はどれも、「本当に速い」タイヤを選ぶときに重要な要素になりそうです。
そして、これらを総合して評価するためには、「タイヤの持つ抵抗」をそれぞれの要素にまたがる形で定量化する必要があります。
そもそも、「最も速いタイヤ」というのは、「ロードバイクで走行時に、総合的にみて走行抵抗が最も小さくなるタイヤ」ということですよね?
そこで出てくるのが「ワット」です。
ワットはパワーメーターを使ってトレーニングしている人にとっては具体的な数字が理解しやすい単位なのでこの評価に最適です。
さっそくそれぞれの要素について見ていきましょう。
転がり抵抗の小ささ
転がり抵抗というのは、ずっとタイヤに関する科学的な議論の中で重要視されてきた要素です。
転がり抵抗は、主に以下の2つによって構成されます。
- タイヤが地面に接して変形し、地面から離れてもとに戻るときに、熱として失われるエネルギー損失
- タイヤが路面の細かい凹凸によって生まれるインピーダンス
1については理解しやすいと思います。
熱として失われるエネルギー損失
空気の入ったボールをバウンドさせることを想像してください。
いつかはバウンドしなくなりますよね?
厳密には空気抵抗とかも影響していますが、大まかには、それが、熱として失われるエネルギー損失で、タイヤについても走行時は常にこれが起こっています。
タイヤにおいてこのバウンドを引き起こすものは、タイヤのゴムそのものと、タイヤ内の空気の2つです。
タイヤのゴムのエネルギー損失を減らすためには、タイヤの素材を工夫したり、タイヤ自体を薄く作ればよいわけですが、薄くしすぎると耐パンク性能が落ちるので、こちらはトレードオフです。
空気圧でエネルギー損失を減らすためには、空気圧を上げればよいわけですが、これにも最適値というものがあって、2のインピーダンスが関係してきます。
タイヤと路面の細かい凹凸によって生まれるインピーダンス
インピーダンスは、路面が平滑でなく、小さな凹凸や小石などの物体が存在する現実世界で考えなくてはならない要素です。
上の図で、タイヤ表面が小さな物体に接触すると、タイヤは小さな物体から力を受けます。この力の向きは、タイヤと物体との接点から伸ばしたタイヤの接線に垂直な方向で、鉛直と比べると斜めです。
この成分を垂直成分と水平成分に分解すると、水平成分は進行方向と逆方向への力となります。これがインピーダンスです。
GCNの、コンチネンタルGP5000のプロモーション動画内に、コンチネンタルが考える実際のタイヤの接地面積に関する興味深い資料があります。
これまで考えられてきた接地部分に対して、実際に設置していたのは右の部分、つまり路面の細かい凹凸の表面のみだと考えられるというのです。
コンチネンタルはこれをGP5000のコンパウンド開発に役立てたそうですがこれはインピーダンスを理解するためには良い資料になります。
GCNは動画内で以下のことも言っています。
これまで平滑だと考えてきた舗装された道路も、接近してみると…ぼこぼこです。もしあなたがバクテリアなら、この舗装道路はまるでヒマラヤ山脈のように感じるはずです。
つまり転がり抵抗の研究においては、
「物理で定義する『平滑』な路面での転がり抵抗ではなく、実際の路面の細かい凹凸によるインピーダンスを加味した転がり抵抗」
が追究されています。
すこし話がそれました。
インピーダンスを減らす方法は2つあります。
一つは、ホイール径を大きくすることです。ホイール径が大きくなれば、上の図で、小石がタイヤに加える力の角度がより鉛直に近づいて、力を分解したときの水平成分が減ります。
マウンテンバイクのレースではいまや大径の29erが世界標準です。これはインピーダンスを減らすという観点で合理的です。
もう一つが空気圧を下げることです。空気圧を下げればインピーダンスはタイヤの変形によっていくぶんか吸収されます。
これらのことはこちらの記事でも先人が書いてくださっているので、理解の足しにしてください。
すなわち、タイヤの転がり抵抗は、
- タイヤの空気圧
- タイヤのゴムの素材がもつ転がり抵抗
の2つによって決まります。
空気圧については、パンパンに空気を入れれば、タイヤの弾性による熱エネルギーの損失は減りますが、インピーダンスも大きくなってしまうので、空気圧を上げすぎずに、双方の抵抗を最小化するポイントとなる空気圧を見つける必要があります。
これについては話すと長くなりすぎてしまうので別記事で書くか検討します。先人の方々がすでに記事を書いているので興味があれば読んでみてください。
この記事で掘り下げたいのは、タイヤのゴムの素材が持つ転がり抵抗です。
これについては、海外のこちらのサイトが、実際に検証してくれています。
各タイヤの持つ転がり抵抗を、ワットで測定してくれています。
実験条件と手順は以下。
- 直径77cmのダイアモンドプレートでできた回転ドラムを使用。
- この上に、同じホイールに各タイヤを装着して乗せ、ドラムを回す。
- 28.8kphの速度を想定してドラムを200rpmで回す。
- ライダーの体重85kgを想定して、車輪への加重は半分の42.5kgf。
- 気温は21.5-22.5℃。
- この条件で転がり抵抗を測定。
今は、どのタイヤが抵抗が最も小さくなっている!とかいう話はしません。
そうではなく、単位がwattsになっている4つの列を見てほしいです。この実験ではドラムにダイヤモンドプレートを用いているので、実際の路面のインピーダンスは含まれていませんが、
最小でも7.0w、そしてタイヤや空気圧によっては15wにもなるという、ワットの規模感を覚えておいてください。
空気抵抗の小ささ
タイヤに空気抵抗?と思われるかもしれませんが、タイヤにももちろん空気抵抗は存在します。
冒頭にも貼りましたが、タイヤの空気抵抗について風洞実験で検証した海外のページがあります。
その中で、タイヤの転がり抵抗+空気抵抗の合計の抵抗値をランキングした表があります。
この実験は先ほどの転がり抵抗の測定実験より少し早い35kph、体重設定は少し重い90kg(つまりタイヤへの負荷は45kgf)で行われています。
引用元のFLOは、空気抵抗や転がり抵抗といった走行抵抗のワット換算にNDRF(Net Drag Reduction Formula)という計算式を使っています。これは、110,000にもなる実際の走行データを5段階で分析して編み出した計算手法だそう。
この実験での転がり抵抗のみの値がこちらです。
上記2表を比較すると、35kphでタイヤがもつ空気抵抗が計算できます。
例えばこのタイヤラインナップで最もエアロなのはContinental GP4000S2 23mmで3.16w。
最もエアロでないのはSpecialized Turbo Cotton 24mmで5.86wとなっています。
同じタイヤのタイヤ幅違いでは、例えばContinental GP4000S2の23mmは25mmより0.9wエアロです。
この、空気抵抗のもつワットの規模感を覚えておいてください。
ただし、タイムトライアルのようにもっと速度が速くなればこの数字は大きくなるでしょうし、ヒルクライムのように速度が遅くなれば、ほとんど無視できる値になるでしょう。
軽さ
タイヤにももちろん重量があります。
タイヤはロードバイクの回るものの最も外側にあるので、少しの重量変化で大きな慣性の違いを生むと思います。
しかしそこまで追究していると話の終わりが見えなくなってしまうので今回は以下のことを考えます。
一般に、機材を100g軽くすると、山で何ワット削減できるのか?
こちらのページが参考になります。
言語学とコンピュータサイエンスの分野で、アメリカのとある大学の助教をしているプログラマーが作成したサイトのようです。
乗り手の重量と機材の重量、獲得標高と速度、所要時間を入力すれば、必要なパワー値を導いてくれます。
もちろん、この試算では転がり抵抗は重量依存、空気抵抗は速度依存で、路面のインピーダンスや空気圧、姿勢による空気抵抗係数の変化までは反映しないと思いますが、逆にその方が、純粋に重量の違いによる抵抗の減少を計算できるので、好都合です。
今回は以下条件で計算結果を比較します。
乗り手の重量: 60kg
獲得標高: 1255m
速度: 22.15kph
所要時間: 1時間5分
あれ?気が付きましたか?
そうです。富士ヒルでゴールドを取る人を想定しています。
この条件で、機材重量を7.0kgで計算すると、
292.72w。
つづいて機材(タイヤ)を100g軽量化して6.9kgの自転車で挑むと、
292.38w。
すなわち約0.34wの節約になります。
富士ヒルでゴールドを取るための数字も結構現実的だと思いますし、空気抵抗、転がり抵抗まで考慮して計算してくれているので信憑性があるかなと思います。
この計算結果でも、速度を同じ設定にしているので空気抵抗は変化ありません。が、転がり抵抗は、機材の軽量化によって0.02w削減されているのが分かります。結構緻密ですね…
100gの軽量化で、富士ヒルのような登り坂(平均勾配5.3%)では大体0.3w。というケタを覚えておいてください。
ただし、この数字というのは、登りの勾配が急になればもっと大きくなるでしょうし、平たん路になればほとんど無視できる数字になるでしょう。
グリップ
グリップは、タイヤのゴムの素材によって決まります。
空気圧は?と思われる方もいらっしゃると思います。実は、タイヤの空気圧は、平滑路面ではグリップに影響しません(平滑路面では、という但し書きについては後で説明します)。
そして、転がり抵抗とのトレードオフだ、と考える方も多いですが筆者はそうは考えていません。転がり抵抗とグリップは考えるための物理的要素が全く異なるものです。
転がり抵抗が低く、よくグリップするタイヤというのも存在すると思います。
それでは、空気圧から考えていきましょう。
タイヤ空気圧のグリップへの影響
タイヤがスリップする状況というのは、ゴムの物体に力を加えて、物体がずれ始める状況(ずれたらスリップ)、ととらえられるので、摩擦に関する物理で理解するのが良いでしょう。
受験のミカタ、というサイトに載っていた図形を引っ張ってきました。
高校物理を思い出しましょう。
摩擦力は、μ: 摩擦係数、N: 加重[N]として
$F=μN$
でした。
最大静止摩擦力という単語がありました。
一定の加重においては、物体が引っ張る力に耐えられる最大の摩擦力が決まっていて、それ以上引っ張ると摩擦力が耐え切れずずれ始めます。この時の最大の摩擦力を最大静止摩擦力と言います。
最大静止摩擦力: Fmaxを発揮するときの摩擦係数を最大静止摩擦係数: μ’とおくと、
$Fmax=μ’N$
それで、
$Fmax<摩擦力$
となれば、タイヤがずれ始めてスリップするわけです。
自転車がコーナーに差し掛かった時、上図のように、遠心力と摩擦力がつり合っているので、安全にコーナーを曲がっていけます。
しかし先ほど言ったように、摩擦力には最大静止摩擦力という限界があります。なのでそれを超えてバイクを傾け、その遠心力に見合った摩擦力を期待しても、最大静止摩擦力以上の摩擦力は出せないのでタイヤがスリップして落車します。
実際には、タイヤの摩擦力を考える時には、静止摩擦力というよりも凝着摩擦というものを考えるらしいのですが、筆者に物理学の見聞が浅く、理解が乏しいので、こちらはしばらく勉強させていただきます。解説できずすみません。
ただ、凝着摩擦力というのはタイヤの変形量や地面との接触面積に応じて増していくものらしいので、タイヤ空気圧を下げればグリップは増加すると考えるのが妥当でしょう。
ちなみに、カーレースで空気圧がグリップと相関するといわれるのは、タイヤゴムの摩擦係数が、温度が高い方が高くなるからというのもあるんだよ。
空気圧を下げれば、タイヤの弾性変形による熱や地面との摩擦熱が多くなってタイヤの温度があがるので、グリップしやすくなるんだ。
ロードバイクの場合は速度域が低くて、ホイール径が大きい。だからタイヤ温度は空気圧よりも、外気温や路面温度に影響されやすいと考えるよ。
転がり抵抗とグリップは、関係ないのか?
また、先ほど少し話しましたが、転がり抵抗とグリップは関係がありません。
転がり抵抗は、転がり抵抗係数Crrを考えますが、グリップは、凝着摩擦を考えます。この力は、Crrに比べると、約10,000倍大きく、タイヤが「ずれる」ことと「転がる」こととは相関しますが、転がり抵抗を抑えて凝着摩擦を増やすというのも可能だと考えます。
ここについても、筆者の見聞が浅いので、勉強させてもらいます。
タイヤゴムの素材
つまるところ、ロードバイクのタイヤのグリップはほぼ素材と空気圧によって決まると思います。
素材が変われば、地面との最大摩擦係数が変わり、それによってグリップは変わります。
だから、タイヤメーカー各社、素材の開発や配分の最適化に全力を注いでいます。
たとえば、コンチネンタルは「ブラックチリコンパウンド」、ヴィットリアは「グラフェン」。各社独自の研究と素材開発で、低い転がり抵抗と高いグリップの両方を実現しようとしています。
参考リンク
しかし、素材に関しても、グリップを数値化する手法は難解を極め、実際に使ったサイクリストのインプレッションを読むしかないといったところでしょうか。
耐パンク性能
耐パンク性能が速さに影響するか、という点については物議をかもすと思います。
筆者はあくまでレースで速く走る、という点にフォーカスしているので、影響はあると思います。
というのも、レース中にパンクして車輪を交換して、チームカーの隊列を使い集団に戻る。この時明らかに無駄足を使いますし、アマチュアレースでチームカーがつかないレースだったら、パンクすればそれは敗退を意味します。
人によってはやる気を失い、完走することすらままならないでしょう。
こんなことにならないために、パンクのリスクというのは最小化するに越したことはないと思うのです。
耐パンク性能は、先ほどもご紹介したBicycle Rolling Resistanceのページで、各タイヤごとに測定されています。
タイヤのトレッドのセンターと、サイドウォールそれぞれに直径1mmの鉄製のニードルを刺し、パンクさせるために必要な力を測定しています。
その結果がこちら。
字が小さくてごめんなさい。
数字の大きさについては、単純に、10は5よりも2倍の力が必要になったことを示しているそうです。
使い方としては、タイヤを選ぶ際、ほかの要素を見比べて最適なタイヤを選んで、選んだタイヤの耐パンク性能が低かったら再度検討する、というくらいが良いのではないでしょうか。
結局、ロードバイクのタイヤ選びで重要なのは?
転がり抵抗、空気抵抗、軽さ、グリップ、耐パンク性能のそれぞれについて深掘りしてきました。
特に前半の3つは、ワットを用いて抵抗を数値化することについて考えました。
つまるところ、自分が狙うレースのコース、路面の状況、予想される平均スピード、天気予報などによって、選ぶタイヤというのは変わってきます。以上に挙げた5つのうち、重要視するべき要素が変わってくるからです。
しかし、ワットを用いて数値化ができていれば心配はいりません。狙うコースで抵抗を最小化するための最適解を見つけることができるでしょう。
転がり抵抗の影響は意外と大きい
今回調べてみて思ったのは、やはりタイヤを選ぶ上では、転がり抵抗が一番大事かなという印象です。ほかの要素と比べて、ワットの削減幅がとても大きかったので、ヒルクライムやタイムトライアルといった、極限まで重量や空気抵抗を追及するレースでなければ、転がり抵抗が大事です。
では、具体的に、どんなレースではどんなタイヤがおすすめか?という点については、今後記事をアップしたいと思います。
この記事が皆さんのタイヤ選びの参考になれば幸いです。
それではまた。
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