皆さんは、ロードバイクに乗るとき、タイヤの空気圧をどのように設定していますか?
タイヤの側面に推奨空気圧が書いてあるから、それを基準にあとは自分の好みかな。速いレースなら転がり重視で高く、登りの多いレースならトラクション重視で低くするよ。
こんな方が多いのではないでしょうか。
恥ずかしながら筆者も空気圧について深く調べたことがなかったので、なんとなく高圧を入れれば高速域でラクに走れそうと、そんな風に思っていました。
しかし、調べていくうち、「高速域ではむしろ空気圧は低い方が転がり抵抗が小さい」ということが分かりました。
今回の記事では、その他、実験に基づいた科学的なデータをもとに、タイヤの空気圧を決めるうえで役に立ちそうな情報を集め、
「最適な空気圧とはなにか?」
について考えました。
その結果、
タイヤ空気圧は、たいていの場合、高いよりは低い方が良い。
ということが分かったので、以下でなぜそうなるのか、話していきたいと思います。
タイトルの話題について気になる方は、目次から「スピードが速いほど空気圧は低い方が良い」に飛んでみてくださいね。
また、ロードバイクのタイヤにはどんな抵抗が加わっていて、それらが具体的に何ワットくらいの規模感なのか?についても、別の記事で説明していますので興味があればご覧ください。
具体的なおすすめタイヤについては下の記事で解説しています。
ロードバイクのタイヤに最適な空気圧は?
まず、空気圧を変えると、タイヤにかかる抵抗のうち、何が変わるのでしょうか?
詳細は上に記載した前回の記事を参照頂くとわかりますが、空気圧によって変化するのは、
- 転がり抵抗
- グリップ
の2つです。
グリップについては、前回の記事で、タイヤ表面が地面に対してどれだけ食い込むか、すなわち凝着摩擦というものを考えると話しました。空気圧を下げればタイヤがより地面に食い込むので、凝着摩擦が増してグリップが向上します。直感的にわかる話ですね。
そしてもう一方の、「転がり抵抗」が、タイヤの走行抵抗においては結構大きい数字を示していたことは、前回の記事で話しました。
つまり空気圧を最適化して転がり抵抗を小さく抑えることで、タイヤの走行抵抗自体を最小化できます。そこで、
タイヤ空気圧と、転がり抵抗の関係
について深掘りしてみようと思います。
タイヤのヒステリシスロスと、インピーダンス
タイヤの転がり抵抗には、大まかに2つの抵抗の種類があって、それが、ヒステリシスロスと、インピーダンスです。
前回の記事↓
こちらで、「熱によるエネルギー損失」と説明していたもの、それがヒステリシスロスです。
タイヤに使われるゴムというのは、粘弾性物質といわれ、加えられたエネルギーを一度内部に貯蔵して跳ね返す性質(弾性)と、外部に発散する性質(粘性)の2つを兼ね備えた物質です。
なので、タイヤゴムは路面に接触し変形したら、元には戻りますが、そのうちの一部のエネルギーを熱エネルギーとして発散します。
この熱エネルギーが、ヒステリシスロスで、「ロス」とは言われますが、人間が快適にロードバイクに乗る上では、「衝撃吸収」という意味で重要な役割を持っています。
そしてこの衝撃吸収に関係しているのがインピーダンスです。
空気圧が低ければ、路面の凹凸による衝撃はタイヤが吸収してくれますが、空気圧が高すぎると、衝撃をバイクとライダーがもろに受けることによってロスが生じます。これがインピーダンスです。
BP(ブレイクポイント)とは?
一般的に、ヒステリシスロスは、空気圧を上げるごとに低下します。
一方で、インピーダンスは、空気圧を上げるごとに増加します。
この2つの事実は、
「どこかに、ヒステリシスロス+インピーダンスの合計値を最小化する、最適な空気圧があるはずだ」
ということを示します。
この時の最適な空気圧のポイント、それをブレイクポイント(BP)と言います。
ポンプメーカーのSILCAのブログのグラフによる説明が分かりやすいので引用します。
青い線がヒステリシスロス、赤い線がインピーダンスで、緑の線が合計です。
合計値が100psiあたりを境に上昇に転じているのが分かりますね。
あくまでこれは、きれいなアスファルト路面での理論値です。
そのため路面の粗さや、走るスピード、タイヤのトレッドの厚さなどによって、それぞれの抵抗の変化率や絶対値が変化して、転がり抵抗のブレイクポイントも変化するというわけです。
少し話はそれますが、このグラフを見たとき、「ヒステリシスロスが一定の値に漸近していくのが面白いな」と思いました。
ヒステリシスロスは、タイヤゴムとタイヤの中の空気、両方に影響を受けますが、空気圧を無限に上げていくと、タイヤ内の空気によるヒステリシスロスは限りなく0になります。
そのため、空気圧とヒステリシスロスのグラフを取ると、最終的にはタイヤゴムがもつ粘弾性の固有値に向かって漸近していくということになります。面白いですね。
荒れた路面ほどタイヤ空気圧は低い方が良い
これは直感的にわかる話だと思いますがデータもそれを明確に示しています。
このグラフは、空気圧と転がり抵抗の関係が、路面の状況によってどのように変化するかという実験で、「路面があれているほど、転がり抵抗が高い値を示す」ことを示すと同時に、
「荒れた路面ほど、空気圧のブレイクポイントが低圧で訪れる」
ということを示しています。
赤い線の「機械で荒らされたコンクリ」では、ブレイクポイントが60psiより下にあるために、インピーダンスの影響が大きくなる部分しかグラフに収まりきっていませんね。
荒れた路面ほど、空気圧は下げるべき!
荒れた路面ほど、タイヤ幅を広げるべき
これは先ほどの、荒れた路面でのデータを抽出したものですが、この実験を行った際、50psiまで空気圧を下げたら、「ホイールが壊れた」んだそうです。
引用元のページでは、
「パリルーべのような石畳と舗装路がミックスされたレースで、舗装路を速く走るための高圧な空気圧と、石畳を走るための低圧な空気圧を、最適にするためにどうやってブレンドするか?」
というテーマが議論されています。
その結果、それを解決する最善手が、「タイヤ幅を広げること」と説明されています。
私たちは、32mm幅のタイヤが30mm幅に比べて、滑らかなアスファルトの上では同空気圧で4-5%の転がりのアドバンテージがあると同時に、石畳では、石畳の表面からリム表面までの距離に8-9%の余裕を持たせることができることを学んだ。
https://blog.silca.cc/asymmetric-effects-of-tire-pressure-optimization
つまり、タイヤ幅を広げれば、路面とリム面との距離がタイヤの直径が大きくなる分広がるので、
リム打ちによるパンクや、ホイールの破損のリスクを抑えつつ、転がり抵抗も抑えられる、ということです。
しかし、筆者はこの、「タイヤ幅が広いほど、転がり抵抗が小さい」には少し語弊があると思っています。
というのは、この表現でいう「転がり抵抗」というのは、あくまでヒステリシスロスの話であって、ヒステリシスロスを小さくすればインピーダンスは結果増加しますから、
「タイヤ幅を広げたら、インピーダンスを考慮してその分空気圧を下げなくてはならない」はずなんです。
この表は、「タイヤ幅を変化させたとき、タイヤのひずみ量が同じになれば、ヒステリシスロスも同じになる」ということを示しています。筆者はこれをそのままインピーダンスに拡張しても問題ないと考えていて、つまり、
「タイヤ幅を変化させたとき、タイヤのひずみ量が同じなら、転がり抵抗も同じになる」
ということを示しています。
幅広のタイヤは、路面からリム面までの距離が長いです。なので、細いタイヤと同じだけタイヤを歪ませても、幅が広い方がリム面までの距離を長く確保できます。これはパンクのリスクが小さいということに他なりません。
つまり、タイヤ幅に関する議論では、
「タイヤ幅を広げて、狭いときと同じだけの空気圧を入れれば、速く走ることができる」
ととらえる人がいますがこれは間違いで、
「タイヤ幅を広げると、転がり抵抗を同じに保ったまま、パンクのリスクを最小限に抑えられる。」
ととらえるのが正解だと思います。
しかし、ここまで考えても、タイヤ幅を広げることに、荒れた路面でのアドバンテージがあることは変わりありません。つまり、
荒れた路面ほど、タイヤ幅を広げて、その分空気圧を下げるべき!
ということです。
スピードが速いほどタイヤ空気圧は低い方が良い
これは意外に思われるかもしれませんが、データがそう示しています。
FLO社の実験では、ランダムにパワー(つまり速度)と空気圧を変えて転がり抵抗を測定したところ、速度が最も遅いときに最も低い転がり抵抗をしめし、最も速度が高いときに最も高い転がり抵抗を示したと言います。
これをグラフにしたものが上で、速度が速くなるほど、転がり抵抗のブレイクポイントが早く訪れることを示します。
FLO社はこの結果をもたらした理由をいくつか考えていて、
- 速度が速い方が路面がタイヤにもたらす衝撃の頻度と激しさが増すから
- パワーを上げることでライダーの身体の動きに無駄が増えてバイクが暴れるから
という2つを挙げています。
筆者としては1の方がしっくりきます。
何はともあれ、
スピードが速いほど空気圧は下げた方が良い!
ということになります。
薄いタイヤほど、空気圧は間違いが少ない
このグラフは、タイヤのケーシングが厚いものと薄いものでの、空気圧による転がり抵抗の変化をみたものです。
厚いタイヤでは、転がり抵抗自体が大きいだけでなく、空気圧によるヒステリシスロスの低下幅も、インピーダンスの上昇幅も大きくなっている、つまり、
「ちょっと空気圧を間違えて設定しただけで、転がり抵抗が大きくなってしまう」
ことを示します。
一方、ケーシングの薄いタイヤは、ブレイクポイントから空気圧が少し外れても転がり抵抗の変化が小さいです。
これは、実際の路面でのブレイクポイントの予測がつかない時に適当に空気を入れてしまっても、ある程度低い転がり抵抗をキープできることを示します。
ただし、ケーシングの薄いタイヤはパンクしやすい傾向にあるので、そこはトレードオフですね。
薄いタイヤほど、空気圧は間違いが少ない!
結局、ロードバイクのタイヤ空気圧の正解は?筆者考案の決め方を公開
ここまで空気圧の決め方に関して様々な指標をお話してきましたが、結局、あなたはあなたが今使っているタイヤに何気圧入れたら良いのでしょうか?
こちらはFLO社のブログに掲載されていた、ライダーの体重と空気圧の目安表になります。
筆者がこれまで紹介してきたデータもこの会社のブログからのものがほとんどなので、FLOさんがそういうなら信憑性は高いかな、というのが筆者の印象です。
しかし、このグラフには、筆者がこれまでに説明してきた、
- 路面の粗さ
- 走る速度
といったファクターは変数に加えられていません。
そこで、筆者が独自にこんな調整方法を考案しました。(筆者の感覚による修正も加えています)
タイヤ空気圧の決め方
①上記グラフに自分の体重と使用するタイヤ幅を当てはめて、空気圧を読み取り、これを基準にする。ただし、通常のポジションの場合、前後輪で荷重がことなるので、基準に対して前輪は-0.3bar、後輪は̟+0.3barするのが良い。
{補足}筆者はこれだとなんだか低すぎて転がりが重たい心持ちがするので、前後輪ともさらに0.3barずつ上げたところを基準にしてます。(例: 筆者の体重66kg→表では25cで5.9bar→±0.3barして0.3bar加えるので前5.9, 後6.5bar)
②走るコースが以下の条件を満たす場合、一つの条件に対して0.3barずつ、空気圧を下げてみる
- 路面が比較的悪い
- 勝負がかかると予想される区間のスピードが40kphを超える
- 使用するタイヤが分厚い(トレッド部の厚さが2.5mm以上)
③これで実際に試走してみて、パンクの不安がある場合や、転がりが重いと感じる場合、0.1barずつ空気圧を上げて、都度走行感を確かめる。
④コツ: この条件でリム打ちしてしまうか不安になる場合はタイヤ幅を広げるのも一つの手段。
⑤注意: この方法で、メーカー指定の空気圧の下限を下回る、または上限を上回る場合は、安全性を損なうので、これを逸脱しない。
※タイヤトレッド部の厚さが分からない場合、下記リンクにタイヤごとのトレッドの厚さの測定値があるので活用をおすすめします。
ロードバイクのタイヤ空気圧を正確に調整するためのツール
ここまで読んでいただいた方は、おそらくこう感じられていることでしょう。
空気圧を0.1bar刻みで調整するのなんて不可能じゃない?
そこで、空気圧の細かい調整を可能にするための商品をご紹介します。
通常のフロアポンプで空気を入れた後、バルブに装着してデジタルで空気圧を測定し、エアリリースボタンで少しずつ空気を抜きながら、自分の狙った空気圧に調整することができます。
こちらは、ポンプに装着して空気を充填しながら、エアリリースボタンで調整できるツールです。
ポンプに装着できない先ほどのツールだと、空気を抜きすぎてしまったら一度ゲージを抜いて、再度ポンプで充填してから調整しなおしになるので、煩わしいことがあります。こちらの方が手間は少ないです。
また、デジタルゲージバージョンもあって、
少し値段は張りますが、これならポンプに装着した状態で、デジタルで細かく空気圧調整ができるので良いですね。
まとめ: ロードバイクのタイヤの空気圧は、高いよりは低い方が良い。
いかがだったでしょうか。
多くの場合、タイヤの最適な空気圧というのは、今まで皆さんが想像していたのと比べて低い場合が多いようです。
また、ブレイクポイントを超えて空気圧を高めると、転がり抵抗の上昇率は、ブレイクポイント手前の低下率よりも大きくなるので、空気圧で迷ったら低めの空気圧にしておくのが無難と言えます。
その他、路面状態と空気圧、スピードと空気圧、タイヤの厚さと空気圧の関係などについても、データをもとに考察してきました。
この内容を参考に、自分に最適な空気圧を見つけてみてください。
ただし、空気の抜きすぎによるパンクや、ホイールの破損には十分に注意してくださいね。
出場するレースやイベント別の2020年おすすめタイヤについては、別の記事で解説する予定なので、ご期待ください。
タイヤの科学についてもっと知りたいという方には以下の記事もおすすめです。
それではまた。